共有持分のみの不動産売却は可能?
メリットとデメリットに加えて注意点を解説2025.03.24
● 共有名義の不動産を勝手に売却できる?
● 共有持分を手放したい場合はどうすればいい?
● 共有名義の不動産をスムーズに売却するにはどんな点に注意するべき?
土地や建物のように物理的な分配がむずかしい財産は、複数人で所有していると管理や売却時に手間がかかるのでトラブルになりやすいです。
共有名義の不動産を売却するには共有者全員の合意が必要ですが、共有持分のみを売却するのであれば独断で自由に売却が可能です。
しかし、一般的な不動産売却とは手順や対応が異なるので気を付けましょう。
この記事でわかること
● 共有持分の基本概要
● 共有持分のみを売却するメリットとデメリット
● 共有持分のみを売却する際の注意点
● 買取業者以外の方法で共有持分を手放す方法
● 共有名義不動産全体の売却をスムーズに進めるためのポイント
共有持分の基本概要
そもそも共有持分とは、土地や建物など1つの不動産を2人以上で所有している際、それぞれが持つ不動産の所有権の割合を意味します。
不動産を一人で所有している状態を「単独名義」、不動産を複数人で所有している状態を「共有名義」と呼びます。
共有持分が発生するよくあるケースは次のとおりです。
● 夫婦でペアローンを組んで新居を購入した
● 相続や贈与の不動産を兄弟姉妹間で分けあった
● 二世帯住宅を購入する際に親子でそれぞれ費用を出し合った
共有持分の割合は、2人なら2分の1、3人なら3分の1のようになるとは限りません。
相続割合や不動産取得時の費用の負担割合などで決まります。
5000万円の不動産を購入する際、夫が3,000万円・妻が2,000万円出した場合、共有持分は夫が5分の3、妻が5分の2となります。
共有持分のみの不動産売却はできない?
結論からお伝えすると、共有名義の不動産は共有している全員の合意がなければ売れませんが、共有持分のみであれば独断で売却が可能です。
分筆された土地であれば「ここからここまでが自分の所有地だ」と主張できますが、建物は具体的な所有エリアが決められているわけではなく、権利の一部を所有するのみです。
つまり、共有持分を所有しているだけでは、不動産そのものの売却や増改築を独断でおこなえないため、第三者が所有しても利点がありません。
共有持分だけを売却しようとしても購入希望者が見つかる可能性が低いため、共有者全員が合意した上で共有名義の不動産を売却するほうが現実的です。
共有持分のみ不動産売却した際のメリット
共有名義の不動産であっても共有持分のみであれば、共有している全員の合意を得られなくても、独断で売却できます。
ここでは、共有持分のみを不動産売却するメリットを解説します。
売却益を得られる
不動産の所有権の一部の売買取引が成立すれば、その資産価値に応じた利益を得られます。
ただし、共有持分を保有したからといって、購入者がその物件で生活したり、売却・増改築したりする権限を得られるわけではありません。
ほかの共有者と話し合いをしたうえで、該当不動産を取り扱う必要があるので、制限の多さを理由に売買契約の成約率は低くなります。
売買契約が成立したとしても、相場以下での取引になるケースが多い点には理解が必要です。
管理責任を免れる
共有持分の所有権がなくなれば、所有者に課せられている管理責任から解放されます。
所有権のある不動産の管理状況が悪くて、倒壊リスク・景観の悪化などの問題を抱えている場合、クレームや行政からの改善命令に対応しなければなりません。
管理責任に対して負担を感じているのであれば、共有している持分を売却してもよいでしょう。
納税義務がなくなる
共有名義の不動産は、共有者全員に納税義務(固定資産税と都市計画税など)が課せられます。
共有者の代表者が、ほかの共有者の共有持分の税金を集めて、納付するのが一般的ですが、納税負担の公平性が保たれていないと不満を募らせる人もでてくるでしょう。
また、売却の話し合いが難航している際に「このまま納税し続けるのは無駄だ」と感じる方もいます。
そのようなとき、共有名義の不動産を売却できないとしても共有持分のみを売却できれば、納税義務から解放されて、金銭的な負担を免れられます。
共有持分のみ不動産売却した際のデメリット
共有持分を勝手に売却した場合、ほかの共有者の所有権や売却益に不利益を与える可能性があるので、迷惑をかけないためにもリスクを押さえておきましょう。
ここでは、共有持分のみを不動産売却するデメリットを解説します。
残りの共有者との関係悪化
共有持分は第三者の個人には買い取ってもらえる可能性が低いですが、専門の買取業者や不動産会社であれば売買契約が成立する可能性があります。
売主は利益を得られるので満足するかもしれませんが、残りの共有持分を取得しようと、業者がほかの共有者に営業を始めると、トラブルの火種になり得ます。
共有名義は兄弟姉妹や親子など親族間で成り立っているケースが多く、そこに第三者の不動産専門家が介入するとなれば、不快感を感じる人も多いからです。
余計な問題が発生すると、不満や怒りの矛先が共有持分のみを売却した人に向き、親族間であっても良好な関係が崩れる可能性があります。
共有物分割請求訴訟
共有物分割請求訴訟とは、不動産の共有名義を解消して単独名義にするための請求です。
当事者の間で話し合いをする「協議分割」と第三者が介入する「裁判所による分割」の2種類があります。
不動産の所有権がほしい第三者(買取業者など)が共有持分を所有した場合、そのまま所有権のみを持っていても意味がないので、共有物請求訴訟を起こされる可能性が高いです。
裁判所が提案する分割方法には、次のようなものがあります。
● 現物分割:共有財産をそのまま分割する方法
● 代金分割:共有財産を売却・競売に出して現金を分割する方法
● 全面的価格賠償:一人がほかの共有持分をすべて買い取って分割する方法
共有持分を買取業者や不動産会社に売却してしまうと、共有物請求訴訟を起こされて、ほかの共有者が納得しないまま競売にかけられる可能性があります。
所有権を泣く泣く手放す羽目になり、さらに競売で相場以下の取引となれば、残りの共有者に不満が生まれるのは当然です。
共有持分の不動産売却における注意点
法律の観点では「共有持分の不動産売却は可能」となっているものの、ほかの共有者や新しい所有者とトラブルになるリスクがあるのが現実です。
所有権を手放したあとのトラブルに巻き込まれないためにも、事前に共有者や専門家のアドバイスを受けるなどの対策が欠かせません。
ここでは、共有持分の不動産売却における注意点を解説します。
ほかの共有者に相談する
共有持分の不動産売却をする際には、仲介業者や買取業者とやりとりをする前にほかの共有者に相談し、自分の意思を伝えるようにしましょう。
共有持分に関して、法律上では自由に売却してよいとされていますが、勝手に所有権を第三者に渡した場合「勝手に売却された」と、とらえる方も多いです。
共有者に第三者の他人が含まれると、話し合いが複雑化するリスクが高まり、勝手に売却した人に対して不信感を抱くきっかけになります。
共有持分を売却したい理由を説明すれば、共有者からの理解を得られて、第三者への売却以外の方法で対処できる可能性があります。
専門家からのサポートを受ける
共有持分を第三者に売却すると、共有名義の不動産が競売にかけられるリスクがあるため、専門家のサポートが欠かせません。
不動産会社に相談すると、売却価格の適正さやスムーズな売買取引が見込める買取業者の選定などをサポートしてくれます。
弁護士に相談すると、共有物分割請求など売却後に起こりうるトラブルを事前に予測して、法的リスクを回避する助言をしてくれます。
税理士に相談すると、売買取引における税務処理・譲渡所得税のサポートをしてくれるので、資金面での不安を解消可能です。
信頼できる購入者かどうかを見極める
共有持分の不動産売却では、権利関係が複雑化するので、売却先を慎重に選ばなければほかの共有者に迷惑をかけるおそれがあります。
主な売却先としては、買取業者と仲介業者の2種類です。
買取業者は、一定条件を満たせばすぐに売買取引が成立するのでスピーディーな現金化が実現できる一方で、相場より低めの取引になります。
仲介業者は、相場もしくは相場以上の金額で売買取引が成立する可能性がある一方で、購入希望者が見つかるまでに時間がかかりやすいです。
このように売却先には一長一短の側面があるため、複数の取引相手とやりとりをして、実績や口コミ、契約条件などを比較して1社に絞りましょう。
アフターフォローの充実した業者を選ぶ
共有持分の不動産売却でトラブルを回避するためには、アフターフォローまで対応してくれる業者を選ぶのがポイントです。
権利関係が複雑化しやすく、ほかの共有者と新しい所有者(買取業者など)の間でトラブルになるケースも少なくありません。
こういったトラブルが起こらないように対策を打ち、何かあれば専属の弁護士と連携して対応してくれるような業者であれば、安心して売買取引ができます。
一方で「売却後は対応不可」「アフターフォローなし」などの運営をしている業者は、不安要素がいくつかあるため、見送ったほうが賢明です。
買取業者以外の方法で共有持分を手放す方法
共有している持分の不動産売却では、買取業者などの第三者を売却先に選ぶと、ほかの共有者に迷惑がかかる可能性が高いため、極力避けたほうがよいです。
ここでは、買取業者に頼らず共有持分を売却する方法を解説します。
ほかの共有者への売却
共有持分の不動産売却を検討しているのであれば、まずはほかの共有者に共有している持分の買い取りをしてもらえるかどうか相談しましょう。
とくに2人で共有名義になっているのであれば、売却後は単独名義になるので、今よりも不動産の管理や取り扱いの自由度が高くなります。
3人以上の複数人で共有名義にしている場合、誰に共有持分を売るのかによって、所有権の割合が変わってくるため注意が必要です。
勝手に売買取引を済ませてしまうと、何も知らされていなかった共有者から「なぜ自分に売らなかったのか?」と不満を持たれてしまうおそれがあるからです。
共有者全員と話し合いの機会を設けて、全員が納得した形で売買取引を済ませられれば、あとからトラブルになるリスクは軽減できます。
共有名義の不動産として第三者に売却
金銭的な事情などを理由に共有持分をほかの共有者に売却するのが困難な場合、共有名義の不動産として売却する方法を検討しましょう。
共有持分のみを売却するよりも、購入希望者が見つかりやすく、仲介業者を介せば高額取引も期待できます。
ただし、共有名義の不動産として売却するためには、共有している全員の合意、売買契約書の署名捺印、決済をする際の立ち会いが求められます。
共有者が多いほどプロセスの手間がかかりますが、代表者を決めて委任状を作成すれば、手続きの簡易化が可能です。
なお、売却益は、持分割合に応じて公平に分配しましょう。
土地の場合は分筆をして売却
共有持分のある不動産が土地の場合、持分割合に応じて分筆すれば、それぞれが単独名義で所有できます。
不動産の単独名義ができれば、ほかの共有者の合意がなくても自由な売却が可能です。
ただし、分筆後に土地の面積が狭くなったり、日当たりや立地条件が悪くなったりすれば、それだけ土地の資産価値が下がります。
土地の面積をそのまま持分割合で分配したところで、資産価値の平等性を担保できるわけではないので、共有者間でトラブルになる懸念が残ります。
分筆を検討しているのであれば、共有者間で決めるのではなく、専門知識を持つ不動産会社に相談して適切な分配方法を提案してもらいましょう。
共有名義不動産全体の売却をスムーズに進めるためのポイント
共有している全員の合意を得られれば共有名義の不動産を売却できますが、そのままでは手続きや売主・不動産会社とのやりとりで手間がかかる可能性が高いです。
スムーズに売却活動を済ませるためには、共有者同士で協力して事前準備が必要です。
ここでは、共有名義不動産全体の売却をスムーズに進めるためのポイントを解説します。
信頼できる専門家に相談して相場や資産価値を把握する
共有者の中で売却に反対している人がいれば、その人から合意を得るために、根拠のある売却のメリットを引き合いに出して話し合いをしましょう。
事前に不動産会社の査定を受けたり、類似物件の市場調査をしたりすると、大体の売却価格と各共有者が受け取れる金額がわかります。
手元に入る金額が明確になれば、売却を敬遠している人の気持ちを前向きにさせられる可能性があります。
また、不動産の専門家に相談をして「このまま共有名義の不動産を所有し続けるリスク」や「今売却したほうがよい理由」を提示してもらうと考えが変わりやすいです。
このように事前準備をするだけで、スムーズに話し合いがまとまる可能性が高まります。
単独名義に変更して窓口を一つにまとめる
共有者全員から売却の合意が取れたら、代表者の単独名義にしてから売却活動をしたほうが手続きの手間を大幅に削減できます。
共有名義の不動産をそのまま売却しようとすると、媒介契約や売買契約などの手続きのたびに、共有者全員の署名・押印や書類の提出が必要です。
それぞれが遠方に住んでいるのであれば郵送でのやり取りになるでしょう。
また、不動産会社や買主とのやりとりをするにも、連絡先が多すぎて、誰に問い合わせをすればよいかわからなくなってしまいます。
売却活動をする代表者を決めて単独名義にすれば、無駄なプロセスをカットできるため、スムーズな売買取引が実現します。
まとめ
共有名義の不動産は共有者全員の合意がなければ売却できませんが、共有持分のみであれば自由に売却が可能です。
買取業者に相談すれば売買取引が成立する可能性がありますが、売却後に共有物分割請求訴訟で競売にかけられるリスクもあるので、取引相手の見極めが必要です。
まずは、ほかの共有者に共有持分を手放したい理由を伝えて、共有者間での売買取引や共有名義での売却を検討しましょう。