借地権の建て替え承諾料とは?相場とトラブル対処法を解説2025.01.07
建て替え承諾料はどのような場面に必要なのだろうか
建て替え承諾料の相場がいくらなのか知りたい
地主とのトラブルを避けて穏便に建て替えをしたい
借地権上にある建物の建て替えを検討されている方へ、建て替え承諾料の概要を中心に、建て替え承諾料の相場や計算方法、トラブル対処法を解説します。
この記事でわかること
建て替え承諾料とは何か
建て替え承諾料の相場と計算方法
建て替え承諾料に関するトラブルと対処法
建て替え承諾料とは?
借地権上にある建物でも、借地権者が一定の条件を満たせば建て替えが可能です。
その条件が、地主の承諾と建て替え承諾料です。
これらを無視すると、地主とのトラブルや事態の複雑化を招きかねないため注意しましょう。
ここでは、建て替え承諾料の概要を解説します。
土地と建物は権利関係が分かれている
借地権とは、建物を建てるために地主から土地を借り受ける権利です。
地主は土地を貸し、借地権者は土地利用の対価として地代を支払う、債権債務の関係性となります。
つまり、土地を所有するのは地主、建物を所有するのは借地権者と、土地と建物は権利関係が区分されます。
借地権者は借地権上にある建物を好き勝手にはできず、建て替えたり売却したりする際には、承諾を得るために地主と協議しなければなりません。
借地上にある建物の建て替えには地主の承諾がいる
借地権付きの土地にある建物を建て替えるには、地主から承諾をもらう必要があります。
そのときに発生する費用が「建て替え承諾料」です。
通常、土地を借りる際に地主と交わす土地賃貸借契約書には、増改築禁止特約が記載されています。
そこには、借地上にある建物を建て替えるときは地主に事前連絡をして承諾を得る必要がある旨が書かれており、その取り決めを守らなければルール違反になってしまいます。
しかし、地主の承諾を得られれば、借地権上の建物であっても問題なく建て替えができ、契約も継続可能です。
なお、借地権で地主の承諾が必要な行為には、建物の建て替えのほか、借地権の第三者への譲渡や大規模なリフォーム、抵当権設定承諾などがあります。
無断でこれらの行為をしてしまうと、地主が申し立てをおこない契約更新ができなくなるなどのトラブルに発展するおそれがあるため注意が必要です。
まずは土地賃貸借契約書を確認し、どのようなケースに地主の承諾が必要なのかを把握しておきましょう。
建て替え承諾料に法律上の規定はない
じつは、借地権上の建物を建て替える際の「地主の承諾」と「建て替え承諾料」にまつわる法律上の規定はありません。
それでも建て替え承諾料が条件となっているのは、「地主への利益還元」の考えが根拠となっています。
一般的に、地主が受け取る地代は、賃貸物件の家賃などに比べて相当低く設定されています。
たとえば、地主が地代として月5万円を受け取る一方で、借地権者は建物を賃貸物件にして30~50万円も家賃収入を得ているケースは多いです。
そのような状況では、早い段階で借地権が返還されるのを望む地主もいるでしょう。
たしかに、普通借地権により建物が老廃すると借地権が消滅すると法律で定められています。
ですが建て替えがおこなわれれば、そのような借地権の消滅は期待できず、半永久的に返還されないのが現実です。
建て替えをすると、建物の耐用年数が長くなり借地期間も延びるので、借地権の経済価値が高くなります。
そこで経済価値の一部還元と、地主の利益損失を補う目的で支払われるのが建て替え承諾料です。
法律上の規定はなくても、実際には契約の際に増改築禁止特約を結ぶのが一般的です。
契約に基づいた借地権者の義務として、建て替えには地主の承諾が必要になるので、その点を正しく理解しておきましょう。
建て替え承諾料が不要なケースもある
地主の承諾が不要なのは、賃貸借契約書に増改築禁止特約が記載されていないケースです。
建て替えを制限するような特約を交わしていない場合は、地主の承諾を必要とせず、承諾にともなう建て替え承諾料も発生しません。
ただし、地主からの承諾がなければ借地権の期間延長もできなくなり、契約期間が満了になれば更新で揉めるリスクは高くなるでしょう。
なお、増改築禁止特約がないと承諾が不要になるのは、借地契約の最初の契約期間のみです。
借地権を更新したあとは、増改築禁止特約の記載がなくても建て替えには地主の承諾をもらう必要があるので留意しておいてください。
また、裁判所の許可制度を利用した場合も地主の承諾は不要です。
借地権者が申し立てをおこない、裁判所から再築の許可を得られれば、地主の承諾がなくても建て替えができるようになります。
しかしながら、やむを得ない事情があると判断された場合のみで、すべてのケースに許可が下りるわけではありません。
裁判所から許可を得た場合でも、ほとんどのケースで借地権者へ承諾料の支払いが課せられます。
いずれにせよ、建て替え承諾料は古くから慣習的になされてきたシステムです。
建て替えにより得られる大きな経済的利益を考えれば、建て替え承諾料として地主に還元し、関係性を長く良好にしておいた方が賢明といえるでしょう。
建て替え承諾料の相場と計算方法
先程も述べたように、地主との協議で建て替えの承諾を得られた場合は、建て替え承諾料が発生するのが一般的です。
賃貸借契約書に建て替え承諾料にまつわる取り決めが記載されていれば、原則その金額と計算方法に基づいて算出します。
具体的な取り決めがなければ地主と話し合いのうえで決定するので、建て替え承諾料の相場と計算方法を確認しておきましょう。
建て替え承諾料の相場
建て替え承諾料の金額および計算方法などを取り決めた法律は存在しません。
とくに取り決めがない場合はケース・バイ・ケースとなるため、具体的な建て替え承諾料の金額は、地主と借地人、双方の合意により決めるのが望ましいでしょう。
建て替え承諾料の相場は、全面的建て替えのケースで更地価格の3~5%程度、一部のみ建て替えのケースで更地価格の1~3%程度です。
更地価格とは、借りている土地の時価を意味します。
建て替え承諾料の計算方法
具体的に建て替え承諾料を算出してみましょう。
全面的建て替えの場合は更地価格の3~5%、一部のみ建て替えの場合は更地価格の1~3%とすると、更地価格が3,000万円の土地の例では以下の相場になります。
全面的な建て替え相場:3,000万円×3~5%=90~150万円
一部のみ建て替え相場:3,000万円×1~3%=30~90万円
借地権者の方は、今借りている土地の更地価格を確認し、上記の計算式にあてはめて建て替え承諾料の目安を算出してみてください。
地主と建て替え承諾料の協議をする際は、このような相場をもとに交渉をおこなうと話し合いがスムーズに進む可能性があります。
条件変更の場合は承諾料が上乗せされる
従来は非堅固な建物だった建物から、堅固な建物に建て替える場合は、借地契約の条件変更をする必要があります。
非堅固建物とは木造や軽量鉄骨造、堅固建物とは重量鉄骨や鉄筋コンクリート造などを指します。
非堅固建物は20年以上、堅固建物は30年以上と借地権の存続期間が異なるために必要な手続きで、条件変更をすると承諾料が上乗せされるので注意しましょう。
条件変更にともなう承諾料の相場は、更地価格の10%程度とされています。
たとえば更地価格が3,000万円の土地の場合、3,000万円×10%=300万円が相場です。
堅固建物のように頑丈な建物に建て替えると、耐用年数や延床面積が増加するなど借地権者が得るメリットは大きいです。
地主にも利益を還元する意味も込めて、通常の承諾料に比べて建て替え承諾料が高めの相場となっています。
また、住宅から業務用建物・賃貸物件へ建て替えるケースなど、用途が変更される場合も条件変更とみなされ承諾料が発生するので要注意です。
建て替え承諾料に関するトラブルと対処法
借地に建つ築年数が古い建物をどうにかしたい、建て替えて利益を増やしたいと希望される方は多いでしょう。
しかしながら、借地権や建て替え承諾料などは専門性が高いうえに手続きも複雑でわかりにくく、トラブルに発展しやすいため慎重さが求められます。
とくに多いのが、地主から建て替えの承諾が得られないパターンです。
ここでは、承諾を得られないケースも含めた3つのトラブル事例と対処法を紹介します。
地主から建て替えの承諾が得られない
地主が建て替えを拒否するケースはよくあるトラブルの1つです。
この場合、地主の承諾がもらえなくても、借地借家法に基づいた裁判を利用すれば建て替えできる可能性があります。
具体的には、借地非訟裁判の申し立てをおこない、地主の代わりに許可を得る方法です。
建物の状況、地主の言い分などを踏まえたうえで、裁判所が許可を出すと判断すれば、要望どおり建て替えができます。
なお、裁判により許可を得た場合でも、地主に建て替え承諾料を支払うケースがほとんどです。
建て替え承諾料を高額請求された
地主から相場より高額な建て替え承諾料を請求されるケースです。
原則として契約書に金額が書かれていれば、それに基づいて支払わなければいけません。
まずは土地賃貸借契約書を用意して、建て替え承諾料に関する記載内容を確認しましょう。
相場は更地価格により変化するため、地主の方と基準が一致しているかどうかも確認が必要です。
建て替え承諾料の一般的な相場を理解してもらったうえで、交渉力をもって話し合いに臨んでみてください。
当事者同士での話し合いに自信がない方は、不動産会社などに適正価格を提示してもらい、交渉も含めて相談すると良いでしょう。
地主の承諾を得たのに建て替えができない
地主から承諾を得ても、「既存不適格建築物」「接道義務違反物件」の場合は、建て替え不可になるケースもあります。
既存不適格建築物とは、建築当時は合法的だったにも関わらず、法改正などにより現在の基準を満たさなくなった物件です。
容積率や建ぺい率の基準オーバーなどがこれに該当し、現行の法令に適合させる必要があります。
また、接道義務とは「幅員4m以上の道路に2m以上接していないといけない」と定められた建築基準法の規定で、これを満たさないと建て替えができません。
規定を満たすにも状況的に困難だと判断した場合は、借地権を売却するのも1つの方法です。
不動産会社へ依頼して第三者に譲渡するか、地主に買い取ってもらうなどの選択肢があります。
地主が土地の返還を希望していれば、提案に応じてもらえる可能性があるので、一度相談してみてはいかがでしょうか。
まとめ
借地権上の建物を建て替える際には、地主の承諾と建て替え承諾料が必要です。
建て替え承諾料の概要や相場、計算方法、トラブルの対処法などを覚えておけば、交渉の場でも説得しやすくなり、地主とのスムーズな話し合いにつながるでしょう。
交渉が苦手な方や、地主との関係性が良くない方は、地主との交渉を円滑におこなうためにも、専門知識のある不動産会社への相談がおすすめです。